相続問題解決・遺言書作成

遺言書について

1.遺言書として典型的なのは、自筆証書遺言と公正証書遺言です。

この他にも緊急時遺言が民法で認められていますが、これは船舶内での遺言等の特殊なものなので、典型的なもの2つについて知っておけばよいでしょう。

2.自筆証書遺言について

遺言者が自分で作成した遺言です。

メリット・デメリットは次の通りです。

メリット

  • 自分で作るので、書式・形式は自由です。
    便箋に書く人もいれば、半紙に筆書きで書く人もいます。
  • 自分で作るので、作成費用は当然「無料」です。

デメリット

  • 紛失・偽造・改ざんがなされる危険性が高いです。
  • 家庭裁判所の検認の手続を経る必要があります。
    この検認とは、紛失・偽造・改ざんの危険性が高いことから、家庭裁判所が「この自筆証書遺言はこういう内容のものです」ということを確定させて、その様な危険を防ぐための手続です。

3.公正証書遺言について

公証人役場で公証人に作ってもらう遺言です。

メリット・デメリットは次の通りです。

メリット

  • 公証人が所定の用紙を使って作成する上、1部は公証人役場にも保管されますので、紛失・偽造・改ざんの危険性が少ないです。
  • 手続的にも厳格なので、家庭裁判所の検認の手続は不要です。

デメリット

  • 公正証書遺言を作成するには、公証人役場に、遺言者本人と、成人の2人以上の証人が一緒に行かなければならず、証人は、公証人が作成している間は、その場に立ち会っていなければなりません。
  • 遺言者や相続人となるべき者の戸籍謄本等の添付書類を揃えなければなりません。
  • 作成費用が思った以上にかかります。
    遺言が長くなると、10万円近く公証人に支払うこともあり得ます。

遺言書についての具体的ケース

遺言はどういう形式でも良いのでしょうか?
 以下、考えられるケースについて、有効か無効かを説明させて頂きます。

1.自筆証書遺言の日付が「平成○○年○月吉日」となっていた場合。

→→→「無効」とするのが判例です。

民法では、自筆証書遺言には遺言者が日付を書かなければならないとされており、「吉日」では遺言を作成した具体的な日付が特定できない、という理由で無効とされました。

2.自筆証書遺言に日付は書いてあるが、実際に作成したのは「平成21年11月11日」であったのに、「平成11年11月11日」と書いてあった場合。

→→→この様に、日付は書いてあったが、実際に作成した日と違う日付であった場合は、どうなるのでしょうか?

この場合、書かれている日付が誤りであること、および実際に作成された日が遺言書の記述等から明らかである場合には、「有効」であるとするのが判例です。

3.遺言者が日付以外の部分を自書して署名・押印し、その1週間後に当日の日付を書いた場合。

→→→では、この様に、日付とそれ以外の部分の作成日時が違っている場合は、どうなるのでしょうか?

この様な作成方法は、民法で禁じられているわけではなく、特段の事情のない限り、遺言者が日付を記載した日に成立した遺言であるとして、「有効」であるとするのが判例です。

4.遺言者が、遺言書を入れて封をした封筒の裏面にだけ日付を書いていた場合。

→→→日付は遺言書の本文に書いていなければならないのでしょうか?

この様な場合に、遺言の書かれた書面と封筒とが遺言書として一体をなすものであるとして、「有効」であるとした裁判例があります。

5.夫婦が2人連名で1通の自筆証書遺言を作成した場合。

→→→「無効」とするのが判例です。

この様な、2人以上が同一の書面で遺言するという形式の遺言は、民法上「共同遺言」として禁止されています。

遺言は、その遺言を残そうとする者の自由な意思によって作成すべきものとされており、その者の意思を尊重すべく、遺言は自由に撤回できるものとされています。

しかし、共同遺言では、遺言を撤回しようとする者の遺言の撤回の自由が害される結果となるので、無効とされるのです。

6.他人の添え手による助けを得て自筆証書遺言を作成した場合。

→→→判例は、次の条件を満たす場合には「有効」であるとしました。

  1. 遺言者が証書作成時に自分で書ける能力を持っていたこと。
  2. 他人の添え手が、遺言者の手を用紙の正しい位置に置くにとどまるとか、遺言者の手を支えただけである場合。
  3. 添え手をした者の意思が介入した形跡がないことが筆跡から判定できる場合。

7.自筆証書遺言の全文がワープロ打ちされたものであった場合。

→→→「6.」で挙げた判例からしますと、遺言書は自分の手で書いたものである必要があると言えますので、この場合は「無効」となると考えられます。

8.遺言が、遺言者が撮影したビデオテープであった場合(カメラの前に遺言者が座って、遺言者本人が遺言の内容をしゃべっている映像が映っている)。

→→→これも、「7.」と同様、「無効」となると考えられます。

9.自筆証書遺言の本文は自筆で書かれていたが、添付の不動産目録だけワープロ打ちされたものであった場合。

→→→自筆証書遺言は、全文が自分の手で書かれたものでなければならないのでしょうか?

この場合、不動産目録は、遺言書の中でも最も重要な部分であり、しかも遺言者本人が不動産目録を自分でワープロ打ちして作成したものではなかったことから、民法において遺言書の全文を自書することが要求されている以上、「無効」であるとした裁判例があります。

10.遺言者が、カーボン紙で複写された自筆証書遺言を作成した場合。

→→→この場合は、遺言者が自分の手で書いた時に、カーボン紙を使った複写がなされているので、「有効」とするのが判例です。

11.日舞の名取であった遺言者が、その名取の雅号で自筆証書遺言を署名していた場合。

→→→民法では、自筆証書遺言には遺言者が氏名を書かなければならないとされていますが、これは、遺言者の本人性の確認と、遺言者の真意を担保するという理由から、要求されているものです。

従って、実務では、氏名の記載は、遺言者が誰なのか、他人と区別できる程度であれば十分で、本名はもちろん、通称・雅号・芸名でもよいとされていますので、この場合も「有効」となります。

通称名を書いた自筆証書遺言を有効とした裁判例もあります。

12.遺言者が押印した印鑑が実印ではなかった場合。

→→→判例は、民法で自筆証書遺言に押印することが要求されているのは、重要な文書については、作成者が署名・押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行や法意識に基づいて、文書の完成したことを担保させるためであるとして、自筆証書遺言に使用する印鑑には制限はない、としました。

従って、実印ではない印鑑が押印されていても、自筆証書遺言は「有効」です。

13.遺言者が、自筆証書遺言の末尾に「拇印」を押していた場合。

→→→民法では、自筆証書遺言の作成の際に「押印」することが要求されており、「拇印」が「押印」にあたるのか、が問題となりましたが、最高裁判所は、「拇印」も「押印」にあたるとして、「有効」としました。

14.遺言者が、遺言書を入れて封をした封筒の封じ目にだけ押印していた場合。

→→→押印は遺言書の本文にされていなければならないのでしょうか?

最高裁判所は、この様な事案において、民法で求められている押印の要件を充たすものとして、「有効」としました。

15.公正証書遺言の作成に立ち会った2人の証人のうちの1人が、目の見えない人であった場合。

→→→最高裁判所は、「有効」としましたが、5人の裁判官のうち、有効と判断したのは3人だったので、かなりきわどい判断であると言えます。

16.公正証書遺言の作成に立ち会った2人の証人のうちの1人が、耳の聞こえない人であった場合。

→→→平成11年に民法が改正され、公証人が、遺言書の内容を遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させて、筆記した内容を確認してもらう方法が認められました。

従って、耳の聞こえない人でも証人になれますので、この場合、公正証書遺言は「有効」となります。

16.公正証書遺言の作成に立ち会った2人の証人のうちの1人が、耳の聞こえない人であった場合。

→→→平成11年に民法が改正され、公証人が、遺言書の内容を遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させて、筆記した内容を確認してもらう方法が認められました。

17.公正証書遺言の作成に立ち会った2人の証人のうちの1人が遺言執行者だった場合。

→→→民法では、公正証書遺言の証人になれない者として、

  1. 未成年者
  2. 推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系尊属
  3. 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び雇人

が挙げられています。

これらは、未成年者以外は、公正証書遺言の内容について利害関係を持つ者や、作成に直接関与した者であるということになります。

しかし、遺言執行者は、遺言の内容通りに相続手続を執り行うので、遺言の内容について利害関係を持つわけではありませんから、証人になれます。

従って、この場合、公正証書遺言は「有効」となります。

18.公正証書遺言の作成に立ち会った2人の証人のうちの1人が、作成の途中から立ち会った場合。

→→→前述の通り、公正証書遺言の作成には、成人の証人2人が立ち会わなければなりませんが、この証人は、遺言作成手続の最初から最後まで、始終立ち会わなければならないのでしょうか?

最高裁判所は、公証人が遺言内容を筆記した後から証人が立ち会った事案において、遺言者が遺言内容を公証人に口述する段階から証人が立ち会っていなかった場合には、その公正証書遺言は「無効」であるとしました。

従って、この判例からしますと、証人は遺言作成手続の最初から最後まで始終立ち会わなければならないと言えます。

19.公正証書遺言の作成に立ち会った2人の証人のうちの1人が、遺言者が遺言書に押印する時だけトイレに行っていて、立ち会っていなかった場合。

→→→「18.」で挙げた判例からしますと、この場合も公正証書遺言は無効である様にも思われます。

しかし、最高裁判所は、証人は遺言作成手続の最初から最後まで始終立ち会わなければならないとの見解に立ちながら、この様な事案において、公正証書遺言の方式の違反のために遺言の効力を否定するのは相当ではないとして、その公正証書遺言を「有効」であるとしました。

但し、この事案は、署名と押印との間が短時間であったこと、押印の時に立ち会わなかった証人が押印の直後に押印を確認したこと、書名から証人が押印を確認するまでの間に遺言者がそれまでに口述した遺言の内容を変更した事実や遺言書が遺言者の意思に反して作成された事実がなかったこと、等の特別の事情があったことから、証人の立ち会いがほぼ充たされていると判断されたものですので、証人が立ち会っていなかった時間が長時間に及ぶ場合には、無効とされる可能性があります。

20.公正証書遺言作成の際、脳軟化症の影響で言語障害のある遺言者の言葉が明瞭ではなかったために、介助者が通訳して遺言内容を公証人に伝えた場合。

→→→公正証書遺言の作成にあたっては、遺言者が、公証人に対し、遺言の内容を口頭で話さなければならないとされています(民法では、これを「口授」(くじゅ)と呼んでいます)。

では、この様に、遺言者がうまく口授できない場合には、どうなるのでしょうか?

この点については、平成11年に民法が改正され、口授の代わりに通訳人の通訳による申述又は筆談によることができる様になりました。

従って、この場合も通訳人が申述することで対処できますので、公正証書遺言は「有効」となります。裁判例にも、普段から遺言者の発言を理解できている者が介添えをして通訳した場合に、有効な口授があったと認めたものがあります。

しかし、遺言者に手話の知識がなく、筆談もできない場合には、公証人には、通訳人の遺言との利害関係をも考慮した上で、通訳人の通訳の正確さを慎重に調査して、通訳が遺言者の口授に代わり得るかどうかを十分検討することが求められると言えます。