各種トラブルの解決

職場でのトラブル

2.職場での人格権の侵害

(1)職場での人格権の侵害とは

昨今、退職を強要するための手段として、労働者の人格を著しく侵害する様な陰湿ないじめが行われるケースが見られます。

その例としては、職場で机を隔離して孤立させる、仕事を与えない、草むしり等の業務と何の関係もない作業をさせる、長期間の自宅待機を命じる、遠隔地へ配置転換させる、といった様々なパターンがあります。

また、人間関係のもつれ等から自然発生的に発生するセクハラや村八分の様に、使用者の意思とは無関係のところで人格権の侵害がなされることもあります。

しかし、労働者は、

  1. 労働契約法第5条において、名誉、プライバシー、生命・身体の安全等の保護が求められています。
  2. 男女雇用機会均等法第11条において、職場における性的な言動による不利益や就業環境の侵害がなされない様に配慮されています。
  3. 最高裁判決において、職場において自由な人間関係を形成する自由があることが認められました。
  4. 労働者の知識、経験、能力、適性にふさわしい処遇を受けることも、人格権の内容の一つです。

といった人格権があります。

従って、これらの人格権に対する侵害行為は、違法な行為なのです。

(2)違法性の判断基準

どの様な行為が違法となるかについては、請求の内容と根拠(不法行為による損害賠償請求、就業環境整備義務違反など)によって異なるので、一律に基準を設けることは難しく、ケースごとに、法的根拠に基づいて、社会通念に照らして判断されることになります。

しかし、人事権を行使して行われる場合には、人事権行使には使用者に一定の裁量が認められることから、違法性の判断が難しいケースもあります。この場合には、次のいずれかに該当する場合には、違法であると考えられます。

  1. その業務命令が、業務上の必要性に基づいていないもの。
  2. その業務命令が、外形上は業務上の必要性があるように見えるが、社会的に見れば、不当労働目的や退職強要目的等の不当な目的に基づいてなされていること。
  3. その業務命令が、労働者に対して、通常甘んじて受けるべき程度を著しく超える不利益を与えること。

(3)セクシャルハラスメント(セクハラ)

職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)には、

  1. 職場において行われる性的な言動に対する女性労働者の対応により、その女性労働者が労働条件において不利益を受けるもの(対価型セクシャルハラスメント)。
  2. 職場において行われる性的な言動により、その言動を受けた女性労働者の就業環境が害されるもの(環境型セクシャルハラスメント)。

があります。

ここにいう「職場」とは、「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所」をいい、その労働者が通常業務に従事している場所以外の場所であっても、業務を遂行する場所であれば、「職場」に含まれます。従って、取引先の事務所や、取引先との打ち合わせの場所になった喫茶店等であっても、その労働者が業務を遂行する場所であれば、職場に該当します。

また、「労働者」とは、正規労働者だけではなく、パートタイマーや契約社員といった非正規労働者を含む、事業主が雇用する労働者の全てをいいます。また派遣労働者については、派遣元事業主だけではなく、派遣先事業者も、いわゆる労働者派遣法第47条の2の規定により、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、事業主が職場における性的な言動に起因する問題について、適切な措置を講ずる必要があるとされています。

さらに、「性的な言動」とは、「性的な内容の発言及び性的な行動」を意味し、この「性的な内容の発言」は、性的な事実関係を尋ねることや性的な内容の情報を意図的に流布すること等「性的な行動」性的な関係を強要することや必要なく身体に触ることやわいせつな図画を配布すること等が、それぞれ含まれるとされています。

男女雇用機会均等法上のセクハラは、労働者の「意に反する」性的言動が対象とされていますので、民法上の不法行為における違法性があるとまでは言えない場合でも、被害者は、

  1. セクハラの内容及びセクハラを行った場合の懲戒について事業主が方針を決めて、それを従業員に周知・徹底する。
  2. 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための必要な体制(事前措置)を整備する。
  3. 職場におけるセクハラに関する事後の迅速・適切な対応(事後措置義務・調査義務・被害拡大回避義務・再発防止義務・被害回復義務)を取る。
  4. 1.2.3.の各措置と合わせて、「相談者・行為者等のプライバシーの保護」や「不利益取扱いの禁止」の措置を取る。

ことを、行政手続や労働審判によって請求することができます。

しかしながら、加害者本人に対する損害賠償請求は、通常は民法上の不法行為に基づくものとなりますので、この請求が認められるには、不法行為上の違法性(社会通念から見て相当ではないこと)がなければなりません。ただ、その判断にあたっては、上記の男女雇用機会均等法における各措置がどの程度履行されたかが重視されることになると言えます。

(4)パワーハラスメント(パワハラ)

最近、いわゆる「パワーハラスメント(パワハラ)」が、社会的問題となってきています。

これは、職場の上司が職務上の地位や権限(パワー)を濫用して部下の人格を傷つけるもので、職場での人格権の侵害の一つとして位置付けられています。

ところが、わが国の企業社会においては、部下を叱責することは業務上当然のことであるという認識や、職務上の関係に過ぎない上司と部下の関係が職場を離れた生活の全ての面にまで及ぶという認識が依然として持たれていることから、部下に対する叱責等がパワハラになり得る可能性があるという認識は、未だ十分に定着していないと言えます。

しかしながら、最近は、上司から懲罰的叱責を受けた部下がうつ病になる事案もあり、この様な認識は改められるべきであると言えるでしょう。

反面、他方で、ミスをした部下に注意や叱責をすることは、職務の円滑な進行のためには、一定の程度は許容されるものであるとも言えます。従って、部下への叱責が業務改善等を目的とする場合には、これを常に違法であると考えることはできません。

パワハラは部下の人格権を侵害するものですから、部下への叱責が違法となるか否かについては、

  1. 部下への叱責が業務上の必要性に基づくものと言えるか。
  2. 部下への叱責の真の目的が、職務とは無関係な私情によるものではなく、職務の円滑な進行のためのものであったか。
  3. 叱責を受けた部下の受ける不利益の程度。

という観点から判断すべきであると考えられます。

現在のところ、パワハラを真正面からとらえて対策を講じている法律は、まだありませんので、これらの観点から、正当な職務の範囲を超える、社会的に相当とは言えない叱責等であると考えるべき行為であれば、民法上の不法行為に該当するものとして、損害賠償請求することができると言えます。

当事務所でのサービス

当事務所では、人格権の侵害の事件においても、損害賠償請求訴訟を提起する場合に、簡易裁判所の事件の場合には、訴状等の書類の作成・提出のほか、司法書士が期日当日にご本人に代わって裁判所に出廷し、地方裁判所の事件の場合には、訴状等の書類の作成・提出のほか、期日当日の出廷の付き添いという形で、皆様のサポートをさせて頂きます。