各種トラブルの解決

職場でのトラブル

3.解雇

(1)解雇とは

解雇とは、使用者による一方的な労働契約の解約を言います。

労働者の承諾は、要件ではありません。

正当事由(客観的な合理性と社会通念から見た相当性)のない解雇は、解雇権の濫用として、労働契約法第16条において無効とされています。

(2)解雇予告義務

使用者が労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前に解雇予告をしなければならず、30日前にこの予告をしない場合には、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項)。解雇予告手当の支払時期は、解雇の効力が発生する日であり、次の賃金支払日に支払うと通知するのは違法です。

ここにいう平均賃金とは、解雇を予告すべき日以前の3ヶ月間にその労働者に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額を言います。

解雇予告の意思表示も、予告した期間の満了によって解雇の効力を発生させる意思表示であり、解雇の意思表示の一つであると言えますから、この意思表示は確定的に行われる必要があります。従って、「がんばってもらわないとこのままでは30日後に解雇する。」という通告は、業績を上げなければ30日後に解雇するかも知れないという解雇の可能性を示すに過ぎず、確定的な解雇予告の意思表示とは認められません。

解雇予告をした後、予告期間満了後に改めて解雇の意思表示をする必要はありません。

但し、使用者が解雇予告義務を守ったとしても、そのことで当然に解雇の効力が発生するというわけではありません。解雇予告義務が守られたとしても、労働契約法における解雇権濫用や個々の法令の解雇制限は、なお適用されます。

なお、使用者が解雇予告義務に違反した場合、6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法第119条)。

(3)解雇を無効として争う場合の対処方法

対処方法として、注意すべき点を申し上げます。

(1)解雇事案なのかを確認する
使用者の言動をよく調べて、労働者の承諾を前提としない解雇だったのか、そうではない合意解約の申し込みだったのかを判断すべきです。
この判断を間違えると、解雇権の濫用の問題と思っていたのに、実際は合意解約の成否の問題だった、ということになりかねません。
(2)解雇理由を調べて特定する
労働契約法第16条違反の解雇権濫用となるか否かは、解雇理由が分からなければ判断できませんので、解雇理由を明らかにする必要があります。
使用者は、労働者から求められた場合には、退職の事由を記載した証明書を交付すべきものとされており、解雇の場合には、解雇理由もその証明書に記載しなければならないとされています(労働基準法第22条第1項)。
そこで、この規定に基づいて、使用者に対して、解雇理由を書面で明らかにさせるべきです。
(3)個別の法令上の解雇制限や就業規則・労働協約の手続条項に違反していないかを調べる
(4)退職を前提とした姿勢を取らずに就労の意思を明らかにする
退職金を請求する等の退職を前提とした行動は、解雇を争うことと矛盾するので、取るべきではありません。
このような行動を取ってしまうと、合意解約の承諾をしたものと解釈され、合意解約が成立していると使用者に主張されることになりかねません。
解雇の撤回を求め、就労の意思があることを内容証明郵便等の書面で明確に通知しておくことが必要です。
(5)解雇後の生計の手立て
  • (ア)雇用保険の仮給付制度
    雇用保険の受給資格者は、解雇・退職等によって失業した場合には、失業給付を受給できますが、解雇を争っていて、現在も雇用関係が存続していると主張する場合には、仮給付として受給できます。
  • (イ)退職金の充当
    使用者が一方的に退職金を振り込んできた場合には、これを解雇後に発生する賃金に充当することも考えられます。
  • (ウ)他社での就労
    解雇後、他社で就労して賃金を得ることも考えられます。
    但し、解雇された企業への就労の意思を明確にせずに他社で就労すると、その期間の賃金請求を拒まれたり、解雇ではなく合意解約であると使用者に主張されたりする恐れがありますので、注意する必要があります。

(4)裁判手続で解雇を無効として争う場合

示談交渉によっても解決しない場合には(事案によっては示談交渉に入ることなく最初から)、裁判手続によって解雇を争うこととなります。

裁判手続で争う場合としては、労働者が、解雇は無効であるとして職場復帰を求める場合と、職場復帰は求めないが金銭的補償による解決を求める場合が考えられますが、このいずれにせよ、調停が成立する見込みが高い場合には労働審判を申し立てることになると考えられます。労働審判は、3回以内の期日で審理が終結しますので、迅速な解決が規定できるからです。但し、労働審判においては、審判に対して異議が出された場合、紛争は解決されず、事件は自動的に訴訟に移行することとなります。

他方で、調停が成立する見込みが低い場合(労働者が職場復帰を求めているが使用者がこれに応じる見込みが低い場合が典型的と言えます)は、労働審判だけでは解決されないことが多いので、最初から訴訟を提起することになると考えられます。

  1. 地位の確認
    解雇が無効である場合は、解雇後も労働契約法上の権利を有していることになるので、労働契約法上の権利を有する地位の確認を請求できます。
  2. 賃金の請求
    解雇後未払いとなっている賃金については、無効な解雇をした使用者には、労働者が就労できなくなったことについて責任があるので、未払いの賃金を請求できます。
  3. 損害賠償請求
    解雇されたことについての損害賠償を請求する(慰謝料請求)こともできます。
    但し、実務では、解雇が無効であったことから無条件に慰謝料が認められている訳ではなく、一般的には、解雇の違法性が著しい場合に慰謝料請求が認められていると言えます。
    社会との接点を失う等、解雇によって労働者が受ける精神的苦痛は非常に大きいものであると言えますから、訴訟で慰謝料請求が認められるためには、その苦痛の実態を詳細に主張することが必要です。

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